病気の治療にはよい靴が欠かせない

「靴を売ってくれませんか。今度リハビリ病院ができますから」

 

1988年、ある医大の先生から私たちの店にそのような依頼がありました。

 

それから3年半、私はその病院に通い、先生とやりとりをしながら、多くの患者さんの足を触ってみてきました。足に障害のある方ばかりですから、たいへん勉強になりました。

 

そうした経験は、今では私たちの靴の製作・調整にすべて生かされています。

 

先にオートペディーシューマイスターがドイツ以外の国々でも活躍している話をしましたが、彼らは日本でもすでに靴作りをしています。私たちはドイツからオートペディーシューマイスターを呼んで、私たちの店で靴の製作をしたり、調整をしてもらっているのです。できるだけドイツの高い技術を生かすために、週1回整形外科の先生とオートペディーシューマイスターの共同作業で、お客様の足のトラブルや靴についての相談にのるようにもしています。

 

全国の靴屋さんにオートペディーシューマイスターを派遣して、足の相談会を開催するようにもなりました。おかげでたくさんのお客様から、励ましやお礼のお便りをいただいております。

 

なかでもうれしいのは、さまざまな病気の患者さんたちから、そうしたお手紙をいただいたときです。足のトラブルの緩和には、優れた靴が欠かせないということをつくづくと教えていただけるからです。

 

確かに靴は薬ではありませんから、直接的に病気を治療することはできません。しかし、足にかかる負担を少なくしたり、歩きやすくすることはできます。足のトラブルや腰痛、ひざ痛などを予防したり、緩和したり、あるいは間接的に改善することもできます。実際、体を支えられて店にやって来た人が、私たちの靴をはいたら、自分で歩けるようになり、本人も連れてきた人も泣いてしまったようなこともありました。

 

とくに糖尿病の患者さんには、靴の大切さにもっと気がついていただきたいと思います。糖尿病ひどくなると、クギを踏み抜いていてもわからない場合があるほどです。えその人は、足の組織が腐ってしまう壊疸という病気を起こしやすいからです。糖尿病は神経障害や知覚障害を引き起こすことがあります。

 

そのため、足に痛みを感じなくなり、靴の中で足の指が曲がっていたり、同じ個所に強い圧力がかっていても本人はまったく気がつかないため、壊疸が起こりやすいのです。したがって、足が傷つかないように保護する靴が必要になります。私たちは1992から糖尿病の靴に取り組み、日本で初めて糖尿病のための靴を発売しました。

 

壊疸がひどくなると、場合によっては足を切断しなければなりません。しかし、糖尿病のコントロールをしつかり行い、靴を改善することにより、そうした事態を防ぐことができます。

 

日本人に糖尿病が急増している現在、不幸な事態を避けるためには、靴の重要性にもっともっと気がついていただく必要があります。